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労働者が負う責任と身元保証人の責任


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就職活動や転職活動を一生懸命頑張った暁に内定を得られた矢先、入社書類に身元保証人のサインと実印押印が必要な「誓約書」なり「身元保証書」をそろえなければいけない場合が多い。

 

収入がある人でなければいけなかったり、両親以外の人でなければいけなかったり、2人以上を求められたり、会社によって様々な取り決めがある。

 

たとえば什器・備品を破損してしまったり、故意または過失により会社に損害を与えた場合に、本人および身元保証人はどれだけの弁償をしなければいけないのだろうか。

 

実は「従業員が全額弁償」という取り決めがあったとしても、それは違法である。労働基準法第16条に「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、または損害賠償額を予定する契約をしてはならない」とあるからだ。

 

また、労働基準法第91条に「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期(月給)における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」とあり、制裁金の額についても制限されている。

 

ただし制裁金とは別に、会社は実際に損害が起きたときに従業員に損害賠償を請求することができる。しかしその場合でも就業規則や就労マニュアルが完備されていたのか、あるいは上司の指示が適切だったのか等、損害を起こした当事者に100%の責任を押し付けることはまずできない。

 

よって、雇用契約書やそれに連動する就業規則に労働者に対する責任の文言が記載されていたとしても、事実上は「ハッパかけ」にすぎない。戒めというか、気をつけて仕事しろよという牽制でしかないのである。

 

金融や不動産等では特に大金を扱う機会も頻繁に起こるため、横領等の防止のために禍々しい文言が雇用契約書や誓約書に踊っている。もし横領などしたら、それは会社の枠を出て犯罪であるから、やはりこれも業務にあたる際の緊張感を持たせる意味合いが強い。

 

基本的に、本人を管理しているのはその上司であり会社である。そして業務による利益を得るのは会社であり、損害が起きたときにだけ従業員に賠償させるのはどう考えても道理に反している。

 

仕事中に交通事故を起こしても一銭も負担を背負ったことはないでしょう?

レジの金額が合わなくても差額を強制的に負担させられたことはないでしょう?

 

むしろ過酷な労働条件のもとで居眠り運転をして死亡事故を起こした場合、会社の責任の方が問われることになる。

 

牽制と本人の信用度をはかるため、雇用に際して身元保証人を求めるケースがよくある。両親以外の人を求める場合もよくある。

 

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借金の連帯保証人と違い、上記の意味合いから就職の保証人はよほど素行に難のある人間でない限りは断る人はあまりいないだろう。

(頼む側からしたら頼みづらいだろうが・・・)

 

身元保証契約の内容は、一般的に保証する責任範囲がきわめて広く期限の定めさえないことがあるが、「身元保証に関する法律」が制定されている。

 

●身元保証契約

 身元保証契約とは「引受、保証その他名称の如何を問わず」

 「被用者の行為により使用者の受けた損害を賠償することを約

 する」契約をいう。(身元保証に関する法律第1条)

●存続期間

 (1)保証期間は特約がなければ契約成立のときから3年間、

    商工見習い者については5年間とする(第1条)

 (2)特約を定めたときでも5年を超えることはできない。

    これより長い時間を定めたときは5年に短縮される(第2条)

 (3)労働契約に期間があれば保証の期間も原則としてそれによる。

●身元保証人の解除権

 (1)被用者に業務上、不適任または不誠実な事跡があって、

    このため身元保証人の責任を惹起するおそれがあることを

    知ったとき、使用者は遅滞なく保証人に通知しなければならない。

   (第4条)

 (2)使用者が通知義務を遅滞し、身元保証人が解約できなかった場合

    でも身元保証人は当然にその責任を免れるわけではない。

 (3)身元保証人は(1)の事実を知りえたときは保証契約を解除しうる

   (第4条)

●保証責任の限度

 裁判所が身元保証人の責任及びその金額を、一切の事情を考慮して

 合理的な額を決定すべきものとしている(第5条)

 

かつてシティズ事件(東京地判平11年12月16日)というものがあった。採用時に身元保証書の提出を拒んだ労働者を解雇したというもので、裁判所は金融機関という特殊性に着目し、身元保証書を提出しなかったことは従業員としての適格性に重大な疑義を抱かせる重大な服務規律違反又は背信行為というべきとして、「労働者の責に帰すべき事由」に該当すると判示したのである。

 

責任ある仕事に従事するには、第三者からの信頼を証明する必要があるということである。「解雇」ということは雇用契約を締結してからの提出要求だったのだろうが、本来は雇用契約を結ぶに値する人物かどうかのテストとして「身元保証人」を求めるべきだと個人的には思う。

 

この「身元保証人」は、白黒ハッキリさせてしまうとその効力というか意味を失ってしまうため、グレーにしておいて「恐さ」を保っていた方が使用者側にとっては都合がよい。

 

だからよくわからないという人が多いかもしれないが、たいして重い責任を背負うわけではないので友人が困っていたら良心でも恩を売るつもりでもなってあげよう。

 

ただし、自己責任で。

  

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