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話題の「原田泳幸」によるマクドナルド経営をたどってみた

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   痛いニュース(ノ∀`):メニュー撤去にマクドナルド原田社長反論

 「提供時間を早める、お客様へのベネフィットのため」

   http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1736959.html

 

マクドナルドのメニュー問題が話題になり、CEOの原田がコメントを発表した。なぜこのような事態になったのだろうか。

 

 ・応対件数の向上のため

 ・待ち時間の短縮による客のストレスの緩和

 

原田はこの2点を念頭に、長い構想と実験期間を経て全店への実行に移した。応対件数の向上とは、AJCC(オール・ジャパン・クルー・コンテスト)に象徴されるように、仕事の正確さとスピードをアルバイト店員(クルー)に競わせ能力の向上を図り、より多くの客数を確保しようという経営戦略だ。

 

マクドナルドではTET(トータル・エクスペリエンス・タイム)という、客が列に並び始めてから商品を受け取るまでの時間を重視している。今回のメニューの撤廃はこの考えの一環であり、それを1秒でも縮めることが顧客の利益につながると考えたのだ。

 

だが、このような反応が話題を集め物議を醸した。

 

 マクドナルドさん、メニュー表を無くさないでください - lessorの日記    

  http://d.hatena.ne.jp/lessor/20121001/1349104025

  マクドナルドがデスクメニューを廃止することへの反響

  http://togetter.com/li/382748

 

より広い客層を取り囲もうという戦略においては、それだけ客の不満を生みやすくなるというマイナスの要素がつきまとうものだ。100円マックを継続して「低価格な組み合わせを“気軽に選ぶ楽しさ”」を残しつつ、プレミアム感のある700円台のセットメニューにも注力してきたマクドナルドの拡大戦略は、より多くの客層を獲得する代償に、不満が生まれる要素も拡大してきたのだ。

 

 100円のハンバーガーと“ミズ”だけで数時間入り浸る中高生のダベりの場、ノマドがタブレットPC持ち込んで作業をする場、中間層の有閑マダム集団のおしゃべりの場、ビジネス話の商談の場、外回りに疲れた営業マンや出勤前後の水商売の息抜きの場、間食からがっつりまで対応可能な食事の場、さらにはホームレスの寝床の場としてまで、あらゆる客層を取り囲んできた。

 

さて、今回の騒動で公の場でコメントを出したマクドナルド代表取締役会長兼社長兼CEO原田泳幸とはどのような人物か。

 

原田は1948年生まれで現在63歳、長崎県佐世保市の出身。元アップルコンピュータ株式会社代表取締役社長兼米国アップルコンピュータ社副社長であり、マクドナルド社長へ転身した際は「マックからマックへ」と話題になった。佐世保という地域柄外国人との関係が深いためか、原田の経歴を見ても日本NCR、横川HP、シュルンベルジェ、そしてアップルという具合にグローバル企業を渡り歩いている

 

IT業界は技術力が勝負だが、外食業界は人間力、つまりピープルビジネスなのである。原田の出身地である佐世保といえば「佐世保バーガー」が有名だが、だからといってハンバーガーショップのノウハウを知っているわけではない。IT業界からまったくの畑違いの業界への挑戦であったが、外食業界全体が前年割れを常態化している空気の中では、むしろ業界の常識を知らなかったことで改革を断行できた向きは大いにあった。

 

また、「グローバル・ワンマーケット」でジョブズiPhoneiPadといった商品、つまり天才的な想像力と技術力が具現化された商品で勝負しているのを横目に、原田自身がビジネスモデルの差別化を武器にして勝負できる外食業界への転身を考えたのは、心情的なジョブズに対する対抗心も多分にあったことだろう。

 

マクドナルドは創業者・藤田田の後継である八木康行が不振に終わり、マクドナルド再建のため原田に白羽の矢が立った。アップル製品Macintoshの愛称「マック」から、マクドナルドの「マック」への転身が話題になり、アップルからヘッドハンティングされた格好だ。マクドナルドもアメリカ国籍のグローバル企業である。そういう意味では、原田の肌に合っていた面もおおいにあった。

 

2004年5月に社長に就任した原田は、従来進めてきたバリュー戦略の見直しを次々に打ち出した。過剰な安売りで債務超過50億円まで失墜したマクドナルドの業績とブランドイメージの建て直しに奔走し、短期間で再建し就任から8年連続で前年比プラスの売上を達成、V字回復の更新に加え営業利益は過去最高益を記録した

 

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原田の持ち味は逆境に負けない精神力とパワフルな体力だ。週2回のウエイトトレーニングと毎朝10kmのランニングは欠かさず、経団連ではもっとも元気な男として異色の存在である。バツイチであるが、現在の妻はシンガーソングライターの谷村有美で年の差は20近くもある。50代半ばで2人目の子ども授かっている。学生時代からジャズバンドを続けていて、ドラマーとして年1回以上の演奏会を開いている。IT業界出身であるが、素の性格が活気あふれる原田にとっては、元気が売りの外食産業のトップとしては天職である。

 

 原田のパーソナリティを知るにはこちらも参考にするとよい

  http://www.1101.com/president/harada_index.html

 

原田の思考回路は大胆だ。頭の中では飛び抜けた戦略を考えている。だが、これほどの大企業を動かしていくには大胆でなければならない。特に変化に柔軟に対応していかなければ、マクドナルドといえども一寸先は闇という時代である。強烈なリーダーシップによるトップダウンで会社を引っ張っていかなければならない。

 

一方、大胆な構想とは相反し、原田は実行については極めて慎重であり、数年単位の計画を立て段階を踏んで実施している。

 

原田就任以来、創業者の藤田田による経営が危うくなっていたマクドナルドは8年間で驚異的な回復と成長を成し遂げてきた。就任時に目標に掲げた「6,000億円」に向け全店売上は伸び、採算性を求めた店舗展開とサービスの向上により来店客数はなんと5億人も増えている。さらに2万人も雇用を増やしている

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 さらに具体的な原田の功績のひとつとして「100円マック」がある。藤田田の時代にバリュー戦略で離れた客を取り戻すための“エサ”だ。短期間で立て直すための即効性のある方針をまず打ち出したのである。それと並行して原田のもうひとつの功績である「QSC(クオリティ・サービス・クレンリネス)」、つまり質、サービス、清潔さでイメージアップを図り、マクドナルドのファンを増やし、高付加価値メニューも買ってもらうという戦略を打ち出した。

 

100円マックによって当然客単価が下がるが、それに加えて藤田時代の従業員への残業代未払いが発覚し大きな損失を計上した。それでも、ギリギリで赤字を回避し、“8年連続プラス”のスタートを切った。当時はマスコミの批判も相次いだが、社内を鼓舞する意味も含め、向かい風の中を前進するように100円メニューを拡充した。この逆境でもブレない姿勢が、今日のマクドナルドの成長の原動力となっている。

 

100億円を投資して「メイド・フォー・ユー」を全店へわずか半年で本格導入した。原田のQSC戦略の象徴でもあるこの「メイド・フォー・ユー」とは、従来の作り置きをレンジでチンする商品提供ではなく、注文を受けてから作りできたてを提供するシステムのことだ。これは100円マックにも採用されている。

 

原田の「100円マック戦略」や「メイド・フォー・ユーシステム」は、もともとアメリカのマクドナルド本部が持っていた成功ノウハウである。アップルに便乗しiPhoneを売りだしたソフトバンクが成功したように、世界で成功したものを国内に持ち込む考えはIT業界の鉄板ともいえる経営戦略だ。

 

この視点は、IT業界出身の原田ならではであり、原田だからこそできた舵取りであった。いや、マクドナルド再建をバスに例えた原田においては、舵ではなく“ハンドル”と言うべきだろうか。

 

マクドナルドの多彩な商品ラインナップの中において、「コーヒー」の価値は特筆すべきものである。2007年8月にカフェ専門店「マックカフェ」がオープンし、ビジネスモデルを模索しながら結果的に既存店のコーヒーの質を向上させる方向へと進むことになった。2008年から発売している「プレミアムローストコーヒー」はSサイズで100円、Mサイズで150円で飲める。それでいて、高品質な豆を使っているためか一般的な喫茶店チェーンで200~400円で飲めるコーヒーよりも美味しいと評判が良く、年間で2.5億杯も飲まれている

 

原田は商品の価値については明確な考えを持っている。藤田時代のバリュー戦略における「バリュー=価値」は迷走してしまった。迷走の理由はブレである。たとえば同じ商品なのに値段がコロコロ変わる牛丼のチェーンと同様の失敗だ。同じように値段が変動するとはいえ、生活必需であるガソリンのようにはいかない。価値がブレると客は離れるのだ。先ほど触れたコーヒーは、「安くて美味しいコーヒー」という価値であり、決して「安いから不味いコーヒー」ではない

 

よく「牛丼屋に質を求めるな」という人を散見するが、これは間違いだ。安いからといってカウンターに干からびた紅しょうがが散らばっていたり、盛り付けが雑だったり、店員が無愛想で良いわけがない。ましてや吉野家の経営方針においては店員と客との接点における質が高くあってこそではないか。牛丼チェーンの低迷は、単に価格競争に陥っていることだけに原因があるわけではない。

 

マクドナルドは「食べて楽しめる最高のレストラン」であるべきと、原田は理念を掲げている。そのために提供する価値は「最もお得感のある商品を届けること(バリュー・フォー・マネー)」と「超利便性(スーパー・コンビニエンス)」の2つだ。

 

マクドナルドの歴史は「お得感、美味しさ、スピード、利便性」を基本にファンを増やしてきた。原田は低迷していたマクドナルドにおいて、その基本に立ち返るよう軌道修正し、強化しただけにすぎない。

 

バリュー・フォー・マネーの考えでは、牛丼の値下げ競争に見られるような戦略は絶対に取らない。「同じ商品で値段を下げる」、「円高や円安で値段が変動する」といった商品価値を考えない値段の上げ下げはNGなのである。

 

世界の成功例を日本に持ち込んで成功している日本のマクドナルドであるが、逆に世界の中で日本のマクドナルドが進んでいる点はケータイクーポンに代表されるeマーケティングである。私はiPhoneのマクドナルドアプリでクーポンをチェックして食べるメニューを決めてから、店へ足を運んでいる。つまり、いつでも手元で確認できるクーポンが訴求効果を発揮しているということだ。

 

そして、店舗の多くは24時間営業している。深夜に小腹が空いた時や、ふと立ち寄りたい時に行ける。これが「スーパーコンビニエンス」である。人間の食欲は半永久的である一方で1日3食×人口というパイの奪い合いでもある。また、食欲は流動的なものであり、食べたいと思った時にすぐ立ち寄りすぐ食べられることが重要だ。24時間営業と迅速な商品の提供は、外食産業の競争でシェアを伸ばすための必然的な戦略なのである。

 

今後は、既に一部店舗で実験的にスタートしている「宅配」にも注力する方針を打ち出している。客の利便性向上をしっかりとリサーチし、サービスを提供してマクドナルドは日本一の外食企業の位置を築いてきたのだ。

 

利便性とは、客の要望にすべて応えることではない

 

過去に客の要望を募ったところ「サラダ」をメニューに置いてほしいという声があり、投入したことがあった。だが、アンケートの声や世間のオーガニック志向とは裏腹に、サラダは売れなかった。「マクドナルドでサラダを食べる」という需要が無かったのである

 

今回、「メニュー撤廃反対!」という客の不満が多く出ているが、原田にはブレない経営を貫いてほしいと思っている。社内のクルーに対するビジョンを示し8年連続前年比増の快進撃を続けているが、9年連続には陰りが見えている。今度は客へ向けてマクドナルドのビジョンをしっかりと打ち出してみてはどうか。

 

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