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軍事技術が転用・応用された身近なもの一覧

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戦争で生まれた技術が現代の便利な生活の中に活かされているものは、いくつも存在している。軍事技術は厳格な規格が定められているため、一般的な環境で開発されている技術や製品と比べ、高性能な技術や完成度が求められている。

 

軍事技術を民生技術に転用することを「スピンオフ」といい、その逆を「スピンオン」、はじめからどちらにも利用可能なものは「デュアルユース」という。

 

1.インターネット

1969年にアメリカがソ連からの核ミサイル攻撃を想定し、非常事態においても指揮系統を失わなようにするための分散処理システムとしてインターネットの原型である「ARPA-Net(アーパネット)」が開発されたとされている。それまでは電話回線による2点間の通信に頼っていたが、電話中継基地の破壊による通信不能の危惧を背景として、伝達情報のパケット通信化や、ある中継拠点が破壊されても迂回して情報を伝達するネットワークシステムが開発されたのである。それまでの2点間の通信からネットワークによる通信が誕生したことは画期的であった。1988年にはアメリカで商用インターネットが始まり、1992年にティム・バーナーズ=リーにより「URL」、「HTTP」、「HTML」が考案され今日のインターネットが形づくられた。

 

2.パソコン

1946年に弾道計算を目的に開発された「ENIAC(エニアック)」は、1秒間に5,000回の計算能力を持つデジタルコンピュータだ。PCの起源としては1942年に誕生した「ABC」という電子計算機があるが、構造上凡用性に欠ける。その後「コンピュータの父」と呼ばれるノイマンの開発チームにより、ハードウェアとプログラム(ソフトウェア)を独立する概念が提唱され、現在のPCの原型となる「EDSAC(エドザック)」へとつながっていった。1965年に真空管に代わる半導体素子としてトランジスタ、そしてICの登場により小型化が進んでいったのである。

 

3.IC(集積回路)

集積回路のアイデア自体は1909年に英国王立レーダー施設で働いていたダマーにより発案されたが、実際の開発はロバート・ノイスがアメリカ空軍の依頼を受けて始まった。小型で処理が速く、また振動にも強く核ミサイルの先端にも取り付けられるという依頼のもとに制作されたのだ。別の機関で開発にあたっていたジャックキルビーとほぼ同時に特許を取得しその有効性を争ったが、最終的には両者ともに国民栄誉賞を受賞することとなった。

 

4.光ファイバーケーブル

核攻撃の電磁パルスでも破壊されないような通信ケーブルとして開発された。日本人工学者である西澤潤一も深く関わっている。極細の信号線で高速信号を長距離に伝搬でき、今日の高速インターネット回線として広く普及している。

 

5.携帯電話

アメリカの携帯電話会社であるモトローラー社が、軍事用無線機の技術を応用し携帯電話を開発した。

 

6.デジタルカメラ

スパイ衛星で使われているCCDカメラと電子メモリー技術を使って開発された。カナダ海軍出身のウィラード・ボイルらは、レンズから取り込んだ映像を電気信号に変換して記録可能とする技術を発明したのが始まりである。

 

7.腕時計

19世紀末のボーア戦争時、イギリス軍が砲撃のタイミングを測る懐中時計を革のベルトで手首にくくりつけて使ったことが腕時計の始まりである。懐中時計を手に持っていては片手しか使えなくなるが、腕時計の誕生により両手で戦えるようになったのだ。腕時計で有名なロレックスの創設者であるハンス・ウィルスドルフはこの情報を聞きつけ、腕時計の将来性を感じ腕時計輸出会社へ19歳の時に就職しのちに世界的ブランドを誕生させた。

 

8.ティッシュペーパー

第一次世界大戦中に脱脂綿の代わりに開発された。吸収力の高さからガスマスクのフィルターとして使われたが、大戦後に大量のティッシュペーパーが余ってしまったため、アメリカのキンバリー・クラーク社がメイク落とし用として「クリネックス」の名で再度販売された。今日では生活に欠かせない日用品として消費されている。

 
9.缶詰

1804年、ナポレオンが遠征における食糧問題を解消するためアイデアを募り、フランスのニコラ・アベールが瓶詰めを発明した。だがガラス瓶では重くて持ち運びしにくく破損もしやすいということから、1810年にイギリスのピーター・デュランドにより缶詰が考え出された。現在に至るまでに殺菌方法や構造の改善がなされ、今では主に備蓄用食品として利用されている。

 

10.電子レンジ

1945年頃、アメリカのレイセオン社技術者であるパーシー・スペンサーが、レーダー開発の実験中に、偶然マイクロ波による急速な加熱現象を発見したことが電子レンジの始まりである。翌年に特許を申請し1947年に商品化されたが、高価でかつ大型であったため普及せず、小型化され家庭用として広まるのは1960年代に入ってからであった。

 

11.テレビゲーム

原爆の開発者の一人であるウィリー・ヒギンボーサムは、コンピュータを平和利用できないか思案し、オシロスコープを使ってテニスゲームを開発した。これが世界初のテレビゲームとなったのである。

 

12.カーディガン

クリミア戦争のバラクラヴァの戦いで有名なジェイムズ・ブルデネルが考案した。「カーディガン」の名はイギリスの伯爵位である。ブルデネルは第7代カーディガン伯爵であり、イギリス陸軍軽騎士兵旅団長であった。戦時中に怪我をした者でも着やすいように、保温のため着られていたVネックのセーターを前開きにし、ボタンでとめられる様にしたのが始まりである。

 

13.トレンチコート

第一次世界大戦中のイギリス軍により、寒冷地での戦いに対応する防水型軍用コートとして開発された。「トレンチ」とは塹壕(戦場で歩兵が砲撃や銃撃から身を守るために使われた穴)ことを指し、当時塹壕戦で重宝されたことから名前に採用された。今日でも冬のファッションの定番となっている。

 
14.グローバル・ポジショニング・システム(GPS)

軍事用のナビゲーションシステムとして開発された測位衛星の技術で、今ではカーナビなどでの民間利用で馴染み深い。アメリカが約30個のGPS衛星を打ち上げていて、それらのうち数個の衛星からGPS受信機で信号を受け取ることで受信者の現在位置を知ることができるシステムである。アメリカが無料でこのシステムを開放しているのは他国によるGPS衛星を防ぐためといわれているが、ロシアやEU、中国、インド等でもGPS計画が進んでおり、日本では2010年に準天頂衛星システム「みちびき」が打ち上げられていて、測量、高齢者やこどもの見守りサービス、各機械の自動制御、火山や地震の検知、天気予報等の利用に期待されている。

 

15.補償光学

人工衛星から地表を観測する際の大気のゆらぎを補正するための技術であり、もともとアメリカが他国の軍事用偵察衛星の形状を観測するために開発したものだ。開発に携わったウィリアム・ハッパーらの働きかけにより一般公開され、今では地上の望遠鏡に必須の装備となっている。

 

16.ロケット

第二次世界大戦中にドイツが開発した軍事用燃料ロケット「V2ロケット」の技術は後の人工衛星打ち上げ技術に発展した。ドイツが擁したフォン・ブラウンらロケット科学者をアメリカ・ソ連が捕え、それぞれの国でロケット開発の道を歩むこととなる。

 

17.原子炉

世界初の原子炉であるシカゴパイル1は、マンハッタン計画で開発されたものだ。原子爆弾の開発・製造のために開発された技術であり、原発が原爆技術の転用であることは言うまでもない。

 

その他には医学全般、宇宙開発全般、製鉄技術に軍事技術が寄与している。

 

軍事技術の応用で生活が便利に、そして豊かになるからといって戦争を肯定するという短絡的な思考を提案するのはナンセンスであるが、他国との競争原理が働く中でさまざまなものが開発されていくその構造は、現在の資本主義社会における企業間の競争とよく似ている。

 

もう十分、便利な世の中になった。戦争はもうしなくてよい。

 

【読んでおきたい関連本】